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2018.6.13 : 米朝首脳会談



史上初 北朝鮮「完全非核化」約束、共同声明、具体策盛らず 米、体制を保証

米大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は12日午前9時過ぎから、シンガポール南部セントーサ島のカペラホテルで会談した。米朝首脳会談は史上初めて。両首脳は米国が北朝鮮に「安全の保証を提供」し、北朝鮮は「朝鮮半島の完全な非核化に対する揺るぎない約束を再確認」する共同声明に署名した。
しかし、日米韓が求める北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」は言及されず、非核化協議のスタート地点に立ったとの位置付けにとどまった。
会談後の記者会見でトランプ氏は「完全非核化には技術的に長い時間がかかる」と述べた。両国は合意の履行のための協議を継続することになっており、来週にもポンペオ国務長官やボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が非核化の詳細について、北朝鮮側と協議するという。
声明では米国と北朝鮮が「新たな関係を作る」と強調。休戦状態にある朝鮮戦争(1950~53年)の終結について「朝鮮半島の持続的で安定した平和体制の構築に向け努力する」と記された。また、朝鮮戦争で死去した米兵の遺骨収集で協力することも確認した。
トランプ氏は記者会見で、非核化に向けた具体的なスケジュールや方策が定められなかったことについて「時間がなかった」と述べた。ただ、金委員長が会談で、ミサイルエンジンの実験場を破壊すると約束したと説明。「これは大きなことだ」と指摘した。北朝鮮は弾道ミサイル発射実験の凍結については具体的な行動を米国側に伝えたことになる。一方で、トランプ氏は、北朝鮮との対話が継続する間は米韓合同軍事演習を中断するとも示唆し、 演習の費用が高額となることと共に「(北朝鮮に対して)挑発的だ」と、その理由を説明した。ただ、制裁については当面維持する方針を示した。非核化の費用については「韓国と日本が助けるだろう」とも述べた。

トランプ氏「拉致提起」

日本人拉致問題について、トランプ氏は「会談の中で提起した」と述べたが、共同声明には盛り込まれなかった。北朝鮮国内の人権問題についても、短い時間協議はしたという。
この日の首脳会談は、会談場でトランプ氏と金委員長が握手をするところから始まった。最初に通訳のみを交えたトランプ氏と金委員長による1対1の膝詰め形式で約40分行った後、拡大会合には米国はポンペオ氏やボルトン氏、北朝鮮は党副委員長の金英哲(キムヨンチョル)、李洙〓(リスヨン)の両氏らが加わった。
両首脳は昼食後にホテルの敷地内を並んで歩くなど、友好ムードが演出された。共同声明の署名式でトランプ氏は「非常に重要で包括的な文書だ」と発言。金委員長は「新しい出発を知らせる歴史的な文書に署名。世界は重大な変化を目にすることになる」と語っていた。 トランプ氏は、安倍晋三首相、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領に電話で説明。安倍首相は電話協議後、記者団に「金委員長が朝鮮半島の完全な非核化を米国に約束した意義は大きい」と述べた。
トランプ氏は12日午後6時半ごろ、帰国の途についた。一方、金委員長は同日午後11時20分ごろ、北朝鮮に向けて空路出発した。

米朝共同声明

新たな米朝関係の構築が朝鮮半島のみならず、世界の平和と繁栄に貢献することを信じ、また、両国の信頼関係の構築によって、朝鮮半島の非核化を進めることができることを認識し、トランプ大統領とキム委員長は以下の通り、宣言する。

1・アメリカと北朝鮮は、平和と繁栄に向けた両国国民の願いに基づいて、新しい関係を樹立するために取り組んでいくことを約束する。
2・アメリカと北朝鮮は、朝鮮半島に、永続的で安定した平和の体制を構築するため、共に努力する。

3・2018年4月27日のパンムンジョム宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組むことを約束する。

4・アメリカと北朝鮮は、朝鮮戦争中の捕虜や・行方不明の兵士の遺骨の回収に取り組むとともに、すでに身元が判明したものについては、返還することを約束する。

史上初となる、アメリカと北朝鮮の首脳会談が、この数十年にわたった緊張と敵対関係を乗り越え、新しい未来を切り開く大きな転換点であることを確認し、トランプ大統領とキム委員長は、 この共同声明での内容を、完全かつ迅速に実行に移すことを約束する。アメリカと北朝鮮は、首脳会談の成果を実行に移すため、可能な限りすみやかに、アメリカのポンペイオ国務長官と北朝鮮の高官による交渉を行うことを約束した。アメリカのトランプ大統領と北朝鮮のキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長は、新たな米朝関係の発展と、朝鮮半島と世界の平和や繁栄、そして安全のために、協力していくことを約束する。

ここから先が長い

既視感のある「成果」だった。これでは、4月の南北首脳会談で署名された板門店宣言の上書きでしかない。
史上初の米明首脳会談は、世界で最後に残った冷戦構造解体への契機になると期待された。
日米と北朝鮮が国交正常化できずにきたことが、北東アジアに冷戦構造が残った原因だ。北朝鮮が核開発を加速化させた理由も、冷戦終結時に国際的孤立 を深めたことだった。 だから、朝鮮戦争(1950~53年)で戦火を赤《え、いまだ休戦状態にある米国と北朝鮮の首脳が握手を交わしたことには象徴的な意味があった。
戦争一歩手前と言われるほど緊張の高まった昨年の状況を考えても、米朝両国が対話によって問題解決を図ろうとすることは歓迎できる。
トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党碧霖長がひざ詰めで話し、相手に対する理解を深めたのなら、それは良いことだ。「ちびのロケットマン≒老いぼれ」とののしりあい、軍事力をひけらかす挑発が行き交う姿は、とても正常とは言えなかった。
題目脳による共同声明にも評価すべき点がある。
北朝鮮の体制では、最高指導者の言葉は絶対的な拘東力を持つ。文言にあいまいさが残っているとはいえ、金氏自身が署名した声明に「非核化」が明yされる意味は小さくない。
しかし、トランプ政権の詰めの甘さには不安を禁じえない。トランプ氏は記者会見で金氏への信頼を強調したが、具体的な根拠は示さなかった。核廃棄を進める上でもっとも重要な「検証」に、共同声明は触れていない。拉致事件の解決も道筋は見えないままだ。
冷戦末期に行った旧ソ週との交渉で「信頼」を語りつつ、厳しい検証を前提条件としたレーガン元大統領との違いは際立っている。
一方の金氏も、国運制裁の解除や緩和を勝ち取れないままでは困るはずだ。北朝鮮がm択してきた「体制の保証」にしても言葉で約束されたにすぎない。米国に対して強い不信を抱く北朝鮮が、これで安心すると考えることは難しい。
米国と北朝鮮による本格的な駆け引きが始まった。派手なだけの「政治ショー」では解決できない課題が、双方に残っている。

社説 : 史上初の米朝首脳会談 後戻りさせない転換点に

シンガポールでトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が固い握手を交わした。やや硬い表情の金氏の緊張をほぐすように、トランプ氏が彼の右腕を軽くたたく。
映画でも見るような光景である。
朝鮮戦争(1950~53年)以来、65年も対立してきた両国の史上初の首脳会談だ。数カ月前までは戦争の瀬戸際とも言われた米朝の「雪解け」は前向きにとらえたい。
両国の共同声明には「新たな米朝関係」など4項目がうたわれた。米国が北朝鮮に安全上の保証(体制保証)を与え、北朝鮮が朝鮮半島の完全な非核化への「揺るがぬ関与」を確約することが合意の柱である。

非核化の担保が不十分

固い約束のようだが、懸念は大いに残る。米朝の共同声明は、韓国と北朝鮮の首脳会談(4月27日)に伴う「板門店宣言」に基づくもので、米国が従来求めてきた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」には触れていない。
記者会見でこの点を問われたトランプ氏は、声明をよく読めば言及していると語る一方、別の記者の同趣旨の質問には「時間がなかった」と答えた。この辺が本音だろう。核廃棄をめぐる肝心な論議を詰め切れていないことをうかがわせた。
そもそも北朝鮮がCVIDに同意したかどうかもはっきりしない。非核化についてトランプ氏は、金氏が会談で「やりたい」と語ったと説明し、ミサイルに使うエンジンの燃焼試験場の閉鎖を北朝鮮側から告げられたことも明らかにした。
しかし非核化のプロセスがいつ始まり、いつ終わるのか。既に北朝鮮が保有する核爆弾はどう処理するのかなど、基本的な問題についても具体的なことは一切語らなかった。
ポンペオ国務長官は会談直前、米国が求める非核化とはCVIDに他ならないと強調していた。米政府内の温度差もさることながら、北朝鮮が誠実に非核化を実行する保証がどこにあるのか。せっかくの歴史的な会談なのに合意内容がいつの間にか後戻りしないか不安になるのだ。
金氏自身の声で非核化の決意や今後の手順を聞けなかったことも不安をあおる。米朝関係は改善されようと、日本をはじめとする近隣諸国の命運にかかわる核・ミサイル問題の行方は不透明と言わざるを得ない。
半面、米国が北朝鮮に体制保証を与えたことで、いまだ休戦状態にある朝鮮戦争は終戦協定に向けた手続きが進む可能性が出てきた。韓国と北朝鮮の南北融和も加速し、東アジアに残った冷戦構造も解消に向かう見通しだ。こうした環境変化に日本も俊敏に対応する必要がある。
共同声明には、朝鮮戦争の行方不明米兵(MIA)について北朝鮮が遺骨などの引き渡しに協力することもうたわれた。軍を重視するトランプ氏の意向をくんだのだろう。
共同声明には盛られていないものの、トランプ氏は首脳会談で日本人拉致問題を提起したと述べた。訪米してトランプ氏に提起を要請した安倍晋三首相の顔を立てた格好だ。

トランプ流の危うさ

注目されたのはトランプ氏が北朝鮮への軍事オプションを封印したと思えることだ。北朝鮮が合意を破った時は軍事行動も考えるかと聞かれたトランプ氏は、韓国などへの甚大な影響を考えれば軍事行動は非現実的との認識を示した。
米韓軍事演習も北朝鮮の対応次第では中止する考えを示し、在韓米軍縮小にも前向きな態度を見せた。この辺は大きな路線転換と言うべきで、北朝鮮への軍事行動は不可能と判断してきた米国の歴代政権に、トランプ氏も同調したように映る。
良くも悪くもトランプ流である。同氏は「権威」や「専門家」を嫌う傾向が強く、米国政治に通じた人々自身が米国の危機を招いたと述べる(著書「グレート・アゲイン」)一方、北朝鮮政策では過去の米政権の「失敗」を批判してきた。
2016年の大統領選時には、金氏とハンバーガーを食べながら核問題を話し合う構想を口にした。今回の首脳会談は、形にとらわれずトップ交渉で問題解決を図ろうとする姿勢の表れだろう。
だが、第三国で行われた首脳会談は「政治ショー」の色彩がつきまとった。金氏の訪米を招請したのもトランプ流だろうが、その成否は今後の推移で判断するしかない。焦点はもちろん、北朝鮮が速やかに核廃棄に着手するかどうか、である。


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