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2018.6.1 : 佐川氏ら、不起訴




学校法人「森友学園」を巡る一連の問題で、大阪地検特捜部は、前国税庁長官の佐川宣寿氏(60)や財務省職員らを不起訴処分にした。問題の発覚から1年4カ月。検察の捜査は終わったが、国有地の大幅な値引きや決裁文書改ざんの背景に、安倍晋三首相らへの忖度(そんたく)があったかどうかなど、多くの疑惑は未解明のままだ。財務省は佐川氏らを処分し、幕引きを図る構えだが、与党からも麻生太郎財務相への責任追及の声が上がる。

焦点は財務省調査に

一連の問題の根幹は、異例ずくめの取引の経緯だ。国有地は当初の貸し付け契約から売却に変更。最終的に8億円も値引きされ、学園が建設を計画する小学校の名誉校長だった安倍首相の妻昭恵氏の影響が国会などで追及された。
値引きの根拠は国有地の地中のごみの撤去費だが、学園との売却交渉を担った財務省近畿財務局が、費用を積算する国土交通省大阪航空局に対し、撤去費の増額を要求していたことが明らかになっている。学園側は当初から、交渉で購入費の上限を1億6000万円と主張。結局、土地の鑑定価格から、1億5000万円が増額された撤去費8億円が差し引かれ、上限価格を下回った経緯がある。
結論ありきの異常な取引にもみえるが、大阪大大学院の品田智史准教授(刑法)は、学園側がごみ処理による開校の遅れを理由に、訴訟をちらつかせていたことに着目する。「訴訟リスクを避けるための値引きには一定の合理性があると、裁判で判断されて無罪になる可能性を、検察は懸念したのではないか」と推測する。
背任罪の成立には損害が発生したことの立証も不可欠で、値引きが過大だったとの証明には、ごみの量を裏付ける客観的な証拠が必要になる。元東京地検特捜部検事の高井康行弁護士は「詳細なごみの量は実際に掘り返さないと分からない。校舎が残っている現状では難しく、当初から立件のハードルは高かった」と指摘する。
特捜部は今回、財務省職員らが保身などのために値下げをしたとまではいえないと判断し、背任容疑での立件を見送った。ある捜査幹部は、不起訴処分が国民の理解を得難いとした上で、「財務省の対応が非難される理由がなかったわけではない。そのレベルが犯罪のレベルなのかということにつきる」と語った。
ただ、積算時の調査でごみの量をしっかり確認しなかったり、大阪航空局が増額要請をなぜ容易に受けたりしたのかなどの疑惑については、未解明のまま捜査は幕引きした。
検察関係者によると、1年以上にわたる捜査では、むしろ学園との交渉記録の取り扱いが課題になったという。保存期間が1年未満であることもあり、佐川氏ら責任者が、必要がなくなり「廃棄した」と言えば、公文書ではなく職員の手控えの扱いになる。公用文書毀棄(きき)罪は、公文書としての使用目的を持って保管されているものを捨てることで成立し、手控えには適用されない。
特捜部は応援検事を集めて立件に向けて長期間検討したが、「廃棄した」との発言に加え、保存期間の問題から起訴は不可能だと判断したとみられる。
山本真千子・特捜部長は今回、1時間半にわたって捜査結果を説明した。不起訴処分の事件としては異例だが、動機や指示系統など詳細については明かさなかった。元裁判官の門野博弁護士は「学園と関わった政治家や昭恵氏らの影響も含め、検察がどれだけ真相に迫れたかは極めて疑問だ」と指摘。「強制捜査に踏み切り、徹底して証拠を集めるべきだった。このままでは、検察が政治に忖度しているのではという疑いを生む」と批判する。

強まる麻生氏責任論

「極めて由々しきこと。職員への処分を含めて(省内調査を)週明けにまとめる」。麻生太郎財務相は31日、成田空港で淡々とコメントを読み上げた。「書き換え」と表現していた不正行為を「改ざん」と明言したが、報道陣の質問に答えず、カナダでの主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議に出発した。
財務省は、麻生氏が帰国する4日に調査結果と処分を発表する方針。麻生氏は「再発防止と信頼回復に努めたい」と財務相続投の意向を示したが、国会を欺く改ざん問題や、前事務次官のセクハラ発言など不祥事が重なり、責任問題が焦点となるのは必至だ。
一方、大阪地検が前理財局長の佐川宣寿前国税庁長官らを不起訴とした結果、決裁文書改ざんや森友側との交渉記録廃棄を進めた経緯の解明は、財務省の調査に委ねられた。麻生氏や財務省には調査と処分の公表で問題に幕を引きたい思惑もうかがえるが、不正の徹底解明と厳正な処分なしには不信は払拭(ふっしょく)されない。
関係者によると、複数の近畿財務局の職員が調査で「佐川氏から(改ざんなどを)指示された」と証言しているという。佐川氏は自らが明確な指示をしたと認めていない模様だが、財務省は「職員側は指示と受け止めた」と判断。調査結果で佐川氏の改ざん指示を事実上、認定する方針だ。ただ、佐川氏らの処分は、懲戒処分のうち最も重い「免職」を見送り、「停職」にとどめる見通し。退職した佐川氏の処分は「停職相当」で、退職金が減額される見込みだ。大阪地検が不起訴としたためだが、「前代未聞の不正」(幹部)だけに、国民の理解が得られるかどうかは分からない。
野党の麻生財務相辞任要求に対して、菅義偉官房長官は31日の記者会見で「麻生氏には国民の厳しい目を真摯(しんし)に受け止め、再発防止に努めていただきたい」と擁護。自民党の二階俊博幹事長も「麻生氏の責任なんて考えたことはない」と強調した。安倍内閣の支持率が低迷する中、副総理を兼務し屋台骨を支える麻生氏が閣外に去れば、政権運営が一層不安定化しかねないためだ。ただ、麻生氏は改ざん問題などで失言も繰り返した。このため、公明党の山口那津男代表が麻生氏の「政治家としての責任が問われる」と語るなど、与党内でも何らかの“けじめ”を求める声が広がっている。


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