2018.1.29 大相撲初場所 栃ノ心 有終14勝
14日目に初優勝を決めた栃ノ心は遠藤を危なげなく退け、14勝1敗で有終の美を飾った。横綱・鶴竜は連敗を4で止めて11勝目。大関・高安は御嶽海を豪快に転がし、自己最多タイの12勝目を挙げた。
三賞は栃ノ心が初の殊勲賞と、2度目の技能賞を獲得。殊勲、技能のダブル受賞は、2015年秋場所の嘉風以来。敢闘賞は、ともに新入幕で10勝の阿炎と竜電が受賞した。
怪力でならす栃ノ心も初の賜杯を軽々と抱きながら、少しぎこちなかった。感想は「最高。重かったです」。言われるままに初々しくこなした表彰式や支度部屋での万歳は喜びにあふれていた。
優勝を決めても力強さは変わらなかった。勝てば、新三役の可能性もあった遠藤の腕を左で抱えてつかまえた。のぞかせた右を何度も返して上体を起こしながら前へ。得意の左上手にこだわらない。相手の上手も切って、押し出した。
大関の期待も抱かせる幕内上位での14勝目だ。八角理事長(元横綱・北勝海)は、今場所途中休場した横綱・白鵬との対戦を鍵と見る。栃ノ心は25戦全敗と、一度も勝てていない。八角理事長は「(白鵬に)うまく上手を切られている。どう打開するか。がっぷり四つでやってほしいね」と期待感を示した。
優勝インタビューで「日本の皆さん、私の国の皆さん、胸がいっぱい。本当にありがとうございます」と母国ジョージアにも感謝の言葉を贈った。ジョージア大使館のツィンツァゼ大使は「全国民の誇り」と喜ぶ。その上で母国では、日本の国民栄誉賞に当たる栄誉を「受賞するかもしれない」と話す。
5場所ぶりに皆勤した鶴竜は11勝4敗で終えた。7日目に優勝した栃ノ心に完勝したのをはじめ、中盤までは万全。だが終盤は引いて土俵を割り、ぶざまな姿をさらした。千秋楽の取組後、優勝賜杯が置いてある支度部屋の上座から最も遠い、入り口付近に座り「一つ乗り越えた」と安堵の表情を見せた。
横綱の地位について「15日間、取る難しさを改めて感じた」と表現した。「頭の片隅にいつもあった」のが進退の2文字。出たからには、優勝に絡まなければならない。9勝以下だと「ふがいない」と周辺が騒がしくなる。かつて故・北の湖前理事長(元横綱)は「横綱の及第点は12勝」と言ったものだ。
ただ、2桁勝利なら「最低限の仕事」と見なされ、非難も少ない。鶴竜は無傷の10連勝で「ホッとして気が抜けると、痛いところが出てきて踏ん張れなくなった」と話す。
場所前、鶴竜から「優勝を目指す」という言葉は聞かれなかったし、途中から一人横綱になり、周囲も「全うしてくれたら」との思いがあった。こうした「緩み」が、中盤までの厳しさを失わせた。
八角理事長(元横綱・北勝海)は「来場所きちっとやってから」と評価を持ち越した。ともあれ場所を全うした鶴竜は「気が楽になった」と言うものの、この日、土俵から落ちた時に手の指を脱臼。風呂場で「自分で入れた。折れてなくてよかった」。完全復活までは山あり谷ありだ。
高安が8連勝で締めて、自己最多に並ぶ12勝目を挙げた。左四つで前に出てくる御嶽海の攻めをこらえ、最後は右からの上手投げで転がした。「後半は型にはまった相撲を取れた」と振り返ったように、8日目からは相手をはじくような力強い立ち合いが光った。一方で、賜杯は平幕の栃ノ心に譲り、
「次こそ自分が優勝したいという気持ちを持って取り組みたい。ひたすら稽古(けいこ)するしかない」と決意を新たにした。
〇…新入幕の阿炎と竜電がそろって10勝し、敢闘賞を獲得した。複数の新入幕力士の三賞受賞は、高見盛と安美錦がともに敢闘賞を受賞した。