2017.6.26 : 将棋 藤井四段が29連勝 30年ぶりに記録更新
将棋の公式戦で一度も負けずに歴代最多の連勝記録に並んでいた中学3年生の藤井聡太四段が、26日、東京で行われた対局に勝ち、連勝を「29」に伸ばしました。藤井四段は連勝記録を30年ぶりに更新し、プロ1年目にして歴代単独1位となりました。
藤井聡太四段は、去年10月に史上最年少の14歳2か月でプロ棋士となったあと公式戦で一度も負けることなく勝ち続け、今月21日の対局で連勝記録を「28」に伸ばして、昭和62年に神谷広志八段が達成した最多連勝記録に並びました。
藤井四段は26日、東京の将棋会館で竜王戦の挑戦者を決める「決勝トーナメント」の初戦に臨み、午前10時から増田康宏四段(19)と対局しました。
対局は早い段階から攻めにかかったのに対し、増田四段が反撃に転じ、終盤、藤井四段が再び攻勢に出た結果、午後9時24分、91手までで増田四段が投了しました。これで、藤井四段は連勝を「29」に伸ばし、最多記録を30年ぶりに更新してプロ1年目にして歴代単独1位となりました。
対局のあと、藤井四段は「途中苦しくなったので、最後はなんとか食いついたという感じでした。最後の最後までわからなかったです」と振り返りました。そして、「自分でも本当に信じられないというか、きょうも含めて苦しい将棋だったので、非常に幸運でした。次も強敵なので、全力でぶつかっていきたいと思います」と話していました。
藤井聡太四段に敗れた増田康宏四段は「終盤、しのげるかと思いましたが、難しかったです」と対局を振り返ったうえで、藤井四段の印象について、「中盤から終盤がかなり強かった」と語りました。
藤井四段が29連勝して最多連勝記録を更新したことについて、28連勝の記録を持つ神谷広志八段は「28という完全数はいちばん好きな数字ですので、それが一位でなくなることは個人的に少々さみしいのですが、凡人がほぼ運だけで作った記録を天才が実力で抜いたというのは将棋界にとってとてもいいことだと思います。藤井さんがこれからの数十年でどんな世界を見せてくれるのかファンの皆様とともに寿命の限り見続けていきたいです」とコメントしています。
藤井聡太四段の師匠、杉本昌隆七段は「竜王戦本戦という大舞台で神谷八段の記録を抜く29連勝は驚がくです。師匠の私も至福の時間をもらいました。28連勝を達成した帰り道、いつもと同じようにずっと将棋の話をしていたのが印象的で、このとき29連勝を確信しました。歴代連勝記録のトップに立ちましたが、14歳の藤井四段にとってこれは序章。一喜一憂せず、これからもさらなる記録を目指して精進してください」とコメントしています。
藤井四段は、26日に勝ち進んだ竜王戦の挑戦者を決める決勝トーナメントで、来月2日に佐々木勇気五段(22)と対局します。この対局に勝てば30連勝です。そのあとは、来月6日の順位戦で中田功七段(49)との対局が予定されています。
将棋界は昨年、コンピューターに翻弄(ほんろう)された。ソフトの実力がプロ棋士を上回ることが明白となり、対局中の将棋ソフト利用疑惑も世間を騒がせた。人間はコンピューターにかなわないという白けた気分に覆われたのではないか。その重い霧を藤井聡太四段の快進撃は吹き払った。勝っておごらず、「一戦一戦を大切に」と語る姿は、将棋を知らない人たちまで引き付けた。
コンピューターがプロ棋士に勝ち続けても、もはや当たり前だ。機械が敗れたところで、プログラムの欠陥が明らかになるだけ。「勝ち」か「負け」かの結果に過ぎない。しかし、人間は完璧ではない。疲れるし緊張もする。大事なことを見落とす。藤井四段も、何度も手を誤り、負けを覚悟したという。過ちを犯す不合理、挽回する気力と粘り。人間だけのドラマだ。
対局相手も多士済々だった。年の差62歳の加藤一二三九段、会社員から棋士に転じた瀬川晶司五段、そして10代対決となった増田康宏四段。プロの誇りをかけてぶつかり合った。私たちを夢中にさせたのは、「勝ち負け」を超え、才能を努力で磨いた人間同士が真摯(しんし)に戦う「勝負」の迫力だった。
藤井四段の活躍は、人間ならではの勝負の魅力に、改めて気付かせてくれた。今後はタイトル保持者ら、さらなる強豪が手ぐすね引いて待ち構えている。ますますの名勝負に胸が躍る思いだ。
ありがとう。